緊急配信!山口教授の“特別講義”第2回

臨時配信番組!山口教授の"特別講義”

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9月29日(木)、山口教授の“特別講義”を緊急配信!

9月21日に発表された日銀の「金融緩和強化策」について、山口教授が緊急解説!

スモールサン会員の方へはメール配信された、山口ブログNo.9[日銀の「金融緩和強化策」~2つのウソと3つの限界~]に沿ってご説明します。
非会員の方やメールが見れていない方は、下記からお読み下さい!


日銀の「金融緩和強化策」
~2つのウソと3つの限界~


去る9月21日、日銀はこれまでの金融政策の「総括的検証」を踏まえて、新たな「金融緩和強化策」を発表しました。
スモールサン会員の中にも、この新政策が「どのようなものか」と強い関心をもって新聞記事などを読まれた方が多いと思います。
でも、そんな方々から聞こえてくる声は「何だかよくわからない」というもの。
そこで、今回のブログでは、日銀が打ち出した「新政策」について、できるかぎりわかりやすく解説してみたいと思います。

2つのウソ

「なぜ、わかりにくいのか」――その理由は日銀が「ウソ」をついているからです。
その「ウソ」とは、以下の2つです。

ウソその①――金利引上げを「緩和強化」と呼ぶ
「緩和強化ではなく、緩和後退ではないか」――
9月21日、米国に本社を置く通信社ロイターは、日本の債券関係者のこんな感想を紹介しています。
実は、この感想こそが正しいのです。なぜなら、通常「金融緩和の強化」といえば、「金利の引き下げ」です。
ところが、今回日銀が打ち出した政策は「金利を引き上げよう」というものなのです。
「10年物国債の利回りをゼロ%程度に誘導する」と、日銀は発表しましたが、この国債利回りは7月中旬にはマイナス0.3%にまで下がっていました。
こんな風にマイナス圏にある利回りを、今後はゼロ%程度に固定しようというのですから、これは「金利引き上げ」にほかなりません。
このように「金利を引き上げる」政策を、「緩和強化策」と称して発表したのです。
この「ウソ」に惑わされて、政策発表直後は為替が円安に動きました。
しかし、「実は緩和強化ではなく後退だ」と市場関係者が気づくにつれて、再び円高に押し戻されたのです。
市場関係者も騙されるくらいですから、素人が日銀の発表を「わかりにくい」と感じるのは当たり前です。

ウソその②――「テーパリングではない」と強弁
「これはテーパリングではない」――
政策発表直後の黒田総裁の発言です。
日銀のもう1つのウソとは、これにほかなりません。
テーパリングとは「量的緩和政策の縮小」のこと、つまり「日銀が買い入れる国債の量を減らす」ことです。
日銀は「年間80兆円のペース」で国債を買い増してきましたが、今後はそういう「量」を目標にしないで、10年物国債の利回りをゼロ%にするといった具合に「金利」を目標にするのだと発表しました。
日銀が「年間80兆円」のペースで買い増していくと、相当な買い圧力ですから、国債価格がどんどん上昇します。
その結果、利回りがどんどん低下してしまいます。
7月にマイナス0.3%にまで低下したのはそのためです。
ですから、国債利回りをゼロ%にとどめるためには、日銀はこれまでのペースで国債を買い続けることをやめ、そのテンポを落とさなければなりません。
これは、まさに「テーパリング」にほかなりません。
今回の発表は、「いずれテーパリングを開始する」と日銀自ら宣言したようなものなのです。
ちなみに、アメリカの通信社ブルームバーグは、21日配信の記事で、市場関係者の間には今回の措置を「事実上のテーパリング」とみる「見方」があるとはっきり書いています。

3つの限界

以上述べてきたように、今回の日銀の「新政策」は「金利引き上げ」と「量的緩和の縮小(方向を示す)」という「緩和後退策」にほかなりません。
では、なぜ日銀はそんな「後退」策を、今になって発表したのでしょうか。それは、以下の3つの点で、従来の緩和策が限界に達したからです。

限界その①――金融業界からの猛烈な反発
その1つは、金融業界からの猛烈な反発です。
この反発で、日銀はマイナス金利政策の後退を余儀なくされたのです。
マイナス金利政策とは、民間銀行が「日銀に置く預金」――日銀預金――にマイナス金利を課す政策のことですが、今のところ、この政策自体はほとんど反発にあっていません。
なぜなら、マイナス金利が課せられるのは、実際には日銀預金全体の1割程度しかないからです。
8割弱の預金には0.1%のプラス金利がついていますし、残り1割強はゼロ金利だからです。
金融業界から反発を受けているのは、日銀によるハイテンポの買い上げによって国債価格が高騰したために、国債の利回りがマイナスになってしまったことです。
利回りがマイナスになったということは、今国債を買ってそれを満期まで持っていたら赤字になるということです。
したがって、金融機関はもはや国債を買うことで資金を運用することができなくなってしまったのです。
銀行は預金を集めても運用先がない、保険会社は保険料を集めても運用先がない――こんな状態になりました。
「日銀さん、いいかげんにしてよ」という声が大きくなりました。
そこで、日銀は国債を買い上げる量を調整して、「10年物国債の利回りをゼロ%程度にし、それよりも長期の国債――たとえば20年物国債など――はプラス圏におさまるようします」と約束したのです。
ちなみに、短期金利はマイナス、10年物はゼロ、もっと長期のものの金利はプラスというように、期間ごとで金利をコントロールしようというわけですが、これを日銀は「イールドカーブ(利回り曲線)コントロール」と英語で説明しました。
それがまた、皆さんから「何だかよくわからない」という声が上がる原因になったのですが、日銀としては、こんな具合に英語の専門用語を使うことで、何か積極的な政策を打ち出したかのように「装い」たかったのだと思います。

限界その②――国債枯渇問題
もう1つの限界は、国債枯渇問題。
つまり、国債が不足して、日銀が「年間80兆円のペース」で買い増そうとしても、実行が難しくなるという限界です。
スモールサンニュース9月号の「巻頭インタビュー」で、「来年6月にも限界に達する」という予測を紹介しましたが、近々日銀がテーパリングを開始しなければならないことはもはや疑いようのない事実です。
とはいえ、「テーパリングを開始します」などと発表すれば、それだけで国債価格が急落してしまい、金利が想定以上に急騰してしまう可能性があります。
そこで、日銀は「テーパリングではない」と言いつつ、「国債利回りをコントロールする」という言い方で事実上のテーパリングをはじめることにしたのです。
「10年物国債の利回りをゼロ%に固定する」と日銀が発表すれば、それ以上の長期金利の急騰すなわち国債価格の急落は避けられると考えたわけです。

限界その③――物価上昇・景気浮揚への効果がない
限界の3つ目は、いくら緩和政策を続けても物価上昇や景気浮揚に効果が出てこないという限界です。
当初日銀は「2年以内に物価上昇率を2%程度にする」と期限付きで目標設定していたのですが、3年半経った今も物価は上がらないどころか、下がり続けています。
つまり、「政策効果という点での限界」は、だれの目にも明らかになってしまったわけです。
とはいえ、「敗北宣言」を出すわけにはいきませんから、今回日銀は「期限を設定しない」で、物価上昇率が2%くらいになるまで、そしてそのあとでもしばらくの間は「緩和政策」を続けると宣言することでお茶を濁したわけです。
これはいってみれば「長い目で見てください」ということですが、これを日銀は「フォワードルッキングな期待形成」とまたまた英語を使うことで、意味があるかのように「装っています」。
こうしてますます「わかりにくく」なってしまいました。
でも、どう言いくるめようとしても、日銀自身が「短期的な効果は期待できない」ことを認めたわけですから、これからは「長期戦」だということになります。
そうなると、長期間続けられる政策でなければなりませんから、金融界から反発の強いマイナス金利政策は改めよう、いずれ限界が来る「大量の国債買い上げ」という「旗」も降ろそうということになります。
そこで、上記のような政策発表になったのです。

考えられる今後の影響

最後に、今回の日銀の政策変更で、実際の経済にどんな影響があるのかという点について簡単に記しておきます。
一言でいえば、当面は「大した変化はない」と思います。
それでも、指摘しておかなければならないことが3点ほどあります。

影響その①――円高圧力の高まり
事実上のテーパリングが始まるということで、これからは円高圧力が続くと予想されます。
「円を大量に供給する」ことで「円安を誘導する」というのが、黒田日銀の手法でしたから、その「円の供給が減ってくる」となれば、投機筋が円高方向に仕掛けてくることは十分に予想されます。
もちろん、米国の利上げがどうなるかなどにもよりますから、一概には言えませんが、こういう観点をもって事態の推移を見守ることが必要です。

影響その②――長期ローンの金利上昇
もう1つは、日銀が10年物以上についてはゼロ%以上の金利にする方針を打ち出したわけですから、長期の貸出金利とりわけ住宅ローンは多少上昇してくる可能性があります。
もちろん、低金利政策は続くわけですから、大幅な上昇はないと思いますが、今年の7月のような水準よりは「上がる」ことになると思われます。

影響その③――「信用リスク」の増加による金利上昇に注意を
3つ目は、日銀が「長期戦」を打ち出したことで、長期にわたって「低金利」が続くという安心感から、「借り過ぎ」の企業が出現する懸念が大きくなることです。
不動産業界などですでにその傾向があることは、スモールサンニュース9月号で述べましたが、そうした業界に限らず、銀行の「貸し込み」や、企業や投資家の「借り過ぎ」が発生しやすくなります。
もちろん長期にわたる低金利状態は、低コストで借り入れができるチャンスであることは間違いありません。
しかし、「金利が安いから」という理由だけで、十分な展望のないまま借り入れを増やすことは危険です。
金利がいくら低くなっても、返済ができなくなれば企業は倒産の危機にあうことになりますから。
さらに、国債利回りを基準にしているといっても、銀行が実際に貸し出す時には、それに「信用リスク分」を上乗せした金利になることを忘れてはいけません。
「借り過ぎ」によって企業の保有する在庫が増加し、「今後この企業では売れ残りがかなり出そうだ」とか、「景気の先行きが怪しくなったので売れ行きが急減するかもしれない」と銀行が予想すれば、「信用リスク」が高まったとして、追加融資の際の金利を引き上げてきます。
経営者はこのことを忘れずに行動する必要があります。

2016.9.25山口義行筆

【出演者】
パーソナリティ:山口 義行 スモールサン主宰 立教大学経済学部教授
アシスト:宮川 栞 / 片山 奈々海 立教大学2年

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